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旅のはじまり 萩原健一 小林桂樹

元号発表直前に訃報が届いた。ショーケンが亡くなった。

 

何人か好きになったきっかけが分からない俳優や歌手がいる。大げさに言えば物心ついたときには好きだったという感じ。それが俳優では小林桂樹萩原健一。年代的にはバブル期のトレンディドラマ世代なのだが、中学生ながら渋めのドラマもけっこう観ていた。NHKのドラマ10で2人が共演することを知り、全5話堪能したことを思い出す。ちなみに最新のトクサツガガガ、30年後このドラマ10枠でこんなドラマをやってるなんて想像出来なかった。

 

好きだったといってもすべての作品を追いかけていたわけではない。ショーケンは中期くらい?豆腐屋直次郎の裏の顔課長サンの厄年、外科医柊又三郎あたりが最も観ていた印象がある。太陽にほえろ傷だらけの天使はリアルタイムでは私は生まれてもいなかった。やんちゃなイメージのショーケンだが演技のうまさと独自なスタイルに惹かれたのだと思う。

 

「旅のはじまり」自分の中では傑作だと思っているのだが、30年前のドラマの良さに共感を得られるかの自信はないし、何より他の人に見てもらう術もない。実家で録画したVHSが残っているはずだが最後にどこに置いたかが思い出せない。DVD化することもなさそうなので、メインキャストの2人が亡くなってしまいこのまま埋もれてしまうのはなんとも惜しい。シナリオも素晴らしいのでせめて誰かリメイクしてほしいくらい。日本全国にこの作品を見て、そして記憶していて内容まで把握している人が何人いるか分からないし、なによりその少数派がこのブログにたどり着く奇跡など起きることはないと思うが、万が一それが起こったときの為、ショーケンの為、作品の為に書き残しておきたい。

 

ドラマを観たきっかけは先にも書いたがショーケン小林桂樹の夢のタッグを知ったからに他ならない。1990年の中学生がNHKのドラマなんてあまり見ていなかっただろうし周りに話題にした記憶もない。世の中はいわゆるトレンディドラマ一色だった。たしかにそういったくくりにされてしまうドラマも観てはいたし面白かったものもあったのだが、中学生ながらに感動というか心を強烈に揺さぶられた作品といえばこのドラマだった。大人になって見返してみるとその時代の普通が今では普通ではないことがよく分かる。それでも今見てもらっても十分に通じるであろう素晴らしい作品であることには変わらないはず。

 

おおまかなあらすじとしては、運転免許取りたての小林桂樹がある日突然息子(萩原健一)の車を借りてどこかへ向かうのだが途中で事故を起こしてしまう。これに懲りてしばらく大人しくしてるかと思ったら電話が入りこれから熊本の天草に行くという。強行する父と連れ戻しにきた息子とのロードムービー的な物語。各話に秀逸なエピソードを盛り込んで進んで行く。主題歌のブルーススプリングスティーンの楽曲もピッタリで良かった。これまでも洋楽はあまり聞いていないが、初めてCDを買った洋楽アーティストだったと思う。

 

これから見る人がいるかもしれないので極力ネタバレは避けたいが、いつものリアルタイムなドラマの感想のように書けなくて難しい。内容にふれない部分でこのドラマの良かったところを挙げるとすればまず2人の自然な演技。息子のショーケンが敬語とタメ口を使い分けるところや、小林桂樹が息子の前では少し頼りないのに裏ではしっかり手回ししているところが微笑ましい。ストーリーの多くの部分が2人の会話になるが漫才のような心地よさがある。基本父がボケ役的なのだが最終話付近で既に帽子を被っている父に対し、忘れないようにと他の帽子を渡したときの桂樹のツッコミの速さは必見だ。そしてそんな演技とシナリオが相乗効果で各話を感動的に仕上げる。偶然出会った若い女性の心の傷が深手にならないように各々で励ましたことをきっかけに、自分の家族を修復しながら最終的に2人の関係も深まっていく。既に視聴済みの方に共感して頂くとすればカラオケで怒鳴ったところや妹の涙、故郷の交番、おかみさんの弁当が最高だ。そしてラストに主題歌が流れる直前ギリギリまで泣かせにくる。

 

 このドラマを見返した時にショーケンの魅力ってやっぱり独特な演技だと感じた。一番感じたのは最初の傷心の女性が故郷へ帰るとき、引きずらないように緩急つけた表情で元気づけるシーン。これは日常でやられたら女性は落ちてしまうよなって感じ。小林桂樹のような安定した演技と異なり、ショーケンの演技は不意を突いてくる。ここまで極端ではないが現在活躍している俳優では満島ひかり門脇麦、男性ではうっすら小栗旬とかかなあと感じる。それがいいとか悪いとかではないのだが、客観的な演技が出来なければ観ている者の不意は突けない。

 

 萩原健一氏のご冥福を祈るとともに、この傑作ドラマ「旅のはじまり」が埋もれてしまわないことを切に願う。